パラレルワールドへようこそ! ここでは、貴方が望む世界を探し出し、それを擬似的に体験することが出来ます!(注:18歳未満の方はご利用頂けません)
 まずは目の前のPOPに検索ワードを入力、もしくは音声入力をしてください。しばらくすると、そのワードが含まれる並行世界が表示されます。
 No.をタッチすると、その世界のあらすじが表示されます。それを見て、貴方が望む世界か判断してください。尚、本製品は――――。

 


 


 キーン、コーン、キーン、コーン。間の抜けたチャイムが鳴ると同時に、教室の空気が一瞬にして緩まった。
「……お、もう終わりか。それじゃ明日は32ページから始める。最初の説明文は出席番号順に読んでもらうから、一番初めの奴は覚悟しておくように。では、昼食だ」
 教師のその一言により、授業が本当の終わりを告げる。教壇を離れ廊下に出てゆく教師を他所に、教室の中は既に昼一色に染まっている。
 もちろん俺もその中の一人であり、早々に席を立って昼飯を買いに行かなければならない。この学校に購買なんていう気の利いたものは無いんだからな。
「武田君はいつも通りコンビニかお?」
「その通り。内藤はいつも通り弁当か。……そういや自分で作ってるんだっけか」
「おっおっ、今日のは自信作なんだお!」
 弁当の中身を見てみると、なるほど、自信作と言うだけはあった。鳥の唐揚げに玉子焼き、キュウリの塩揉みにごま塩が振りかけてある白米。小さいタッパーにスイカを一切れ。……自信作だろうな。
 晩飯ならどうとでもなるが、朝に作る弁当となると一気に面倒になるのは気のせいだろうか。一人暮らしな分、晩飯を余らせない所にも原因があると思うのだが、いやはや。
「んじゃ、俺は一人で寂しくコンビニだな」
 本堂は休み、佐藤は他の奴とどこかへ行ってしまい、残ったのは俺一人。久しぶりの一人きり、良く言えば平穏。
 内藤に一瞥し、教室を出る……と、廊下に出てみれば死角となっていた脇に見知った姿。
「なんだ、三島か。そういやお前って弁当だったっけ」
 そう言うも、中々返事が返ってくることはなく。壁に寄りかかり顔が俯いている所為で、その表情は見えない。さすがに三島でもこれはおかしいと思い肩に手をかけようとすると、それに合わせるかのように顔を上げる。
「ちょっと、相談に乗って欲しいの。屋上まで来てくれない?」
「あ、あぁ」
 その顔は真剣過ぎて、茶化すことも儘ならなかった。

 


『デリート』

 


「で、相談ってのはなんなんだ」
 屋上。予想通りと言えばその通り、そこには誰の姿もなく。……校内で一番日差しに晒される場所へわざわざご招待してくださった三島さんは、中々口を開かない。
 諦めた俺はフェンスにもたれ、軽く空を仰ぐ。いつもと変わらない青空。屋上だからだろうか、夏にしては少し強めの風。空を見れば一筋の白線、どこへ向かうのか飛行機雲が伸びてゆく。
 さて、暖気に当てられると眠くなるというのが通説。例に漏れず俺は眠気に襲われているわけなのだが、いくら待っても三島は何も言いやしない。
「何も言わないのなら寝るぞ、俺は」
 空を眺めていても詰まることは何も無く。結局は青い残照を残しながらも俺は目を瞑る。……まったく、どうしたものか。話を聞いていないのにこの場から離れるのは罪悪感があるし、かと言って呼び出した張本人は何も言わない。なんというジレンマ、俗に言う前門の虎、後門の狼。
「――杉林さんのことよ」
「あ?」
 と、夢の世界へと旅立つ直前、急に現実へ引き戻された。背を向けていた杉林はいつの間にか正面を向き、と言うより俺の正面に立っていた。
「杉林っつーと、部活関連か? それなら問題は無いはずだが」
「違うの、部活のことじゃない」
「なんなんだ」
「プライベートな事だし、あんまり他人に言いたくはなかったんだけど……やっぱり、誰かに相談したくなったの」
 杉林のプライベートな面が相談なのか? 実は素行不良で手に負えないんです、なんて言い出すんじゃないだろうな。
「この間説明した時に聞いたと思うけど、彼女が留年しているのは知ってるよね?」
「あぁ。その理由はわからなかった、みたいな事も言ってたな。……それが相談内容なのか?」
「うーん、その、ね、留年した理由は昨日わかったの。その内容も納得できるものだった。……けど、それだとおかしいのよ」
 太陽の日差しを反射してなのか、それともそんな機能が付いているのか、三島の眼鏡がキラリと光る。元々目が透けない謎な眼鏡をつけている所為か、普段は表情が読みにくい。……しかし、今ならばその眼鏡の裏にある表情を読み取れる気がした。至極、真剣な顔が。
「入院の所為で休んでいたらしいの」
 もはや口の挟みようもなく、黙って三島の言葉に耳を傾ける。
 単位制の高校だと休学は受け付けても、単位をもらえることはない。足りなくなって留年、もしくは在学期間の延長。多分、杉林もそんな感じだったのだろう。
 そう、それだけならば何の問題も無いのだ。なのに三島はおかしいと言う。……続きを聞こう。
「でね、その入院の理由が交通事故……トラックに撥ねられた所為で植物人間の状態が続いた。問題はね、武田君。彼女はまだ治っていないということよ」
「治って、いない?」
 また珍妙な。おかしなことを言う。
「別にわたしは特別なことをしたわけじゃないのよ? 杉林の人に直接聞いただけなんだから。……で、その人は今でも彼女は眠ったままだと言う。でも杉林さんは現に学校へ来ている。おかしいと思わない?」
 ……言われてみれば、おかしい。杉林が退院しているのか、三島が話を聞いたという奴が嘘をついているのか、はたまた杉林は二人存在していることになるのか。なんにせよ、どこかしか噛み合っていない部分がある。
「とてもじゃないが、この話は支離滅裂すぎる。杉林は本当に今も入院してるのか? 」
「うん。わたしも直接見たわけじゃないけど、病院の人に聞いたから間違いないよ。と言うのも、面会謝絶だったから見に行けなかったんだけど」
 さすがに病院ぐるみで嘘をつくとは思えない。そして、それは杉林がまだ退院していないことに繋がる。……だが、三島の言うように杉林は元気に来ている、と。こういうことか。
 不可解と言えば不可解。まるで都市伝説にあるドッペルゲンガー。片や完全なアリバイがあり、片やそれを否定するかのように学校へ来ている。……どうしようもない、気付いてはいけないことを気付いてしまったような気分だ。
「……ごめんね」
「あ?」
「その、急にこんなこと言っちゃって。ただ、やっぱりどうしても気になっちゃって。人に言ってみれば何かわかるのかもって思ったけど、駄目だね、やっぱりわかんない」
「俺だってわからん。考えれば考えるほど、なにやらSFチックな香りが漂ってきやがる」
 あることないこと考えてはみるものの、やはりわからない。三島が言うことに説明をつけられるほど、俺の頭はよろしくないという訳だ。
「――それじゃ、もう行くわ。……言ったことは深く考えないでね? 言いたいだけ言っておいてなんだけど、結局はプライベートの侵害、わたし個人の疑問に過ぎないんだから」
「わかってるさ」
 そう言い残すと三島は背を向け、屋上から出て行った。
 再度、空を仰ぐ。見れば先程の飛行機雲は形を崩し、暑かったはずの日差しは何故か生温く。そして気付く、昼飯を食べれなかったことに。無常にも、授業を知らせる予鈴が校内に響いていた。


 




 
 学校での一日が終わる。怠慢な態度で受けていた授業はいつの間にか終わっており、生徒達は席を立ち各々の行動に移り始めている。
「武田、一緒に帰るか?」
「……ん、佐藤か」
 何をするわけでもなし、ぼーっと外を眺めていた時、不意に声をかけられる。振り向くとそこには佐藤が立っており、肩に鞄をぶら下げている辺り帰り支度はもう済ませたようだった。
 適当に返事をし、俺も机の中身を鞄に入れる。すべてを入れ終わり席を立つ……と、気付いた。
「佐藤、杉林はいいのか? 今朝のノリなら、一緒に帰ることも出来るだろうに」
「そうしたかった。したかったけど、残念ながら姿が見えないんだ。昼休みからいなくなっちゃってね」
「そうだったのか。つまり、お前の慰み者よろしく俺とは仕方なく帰ると、そう言いたいんだな」
「馬鹿言ってないで帰ろうぜ」
 ……図星だったのだろう、佐藤は気を悪くしたのか俺に背を向け、早々に教室から出て行ってしまった。……悪いことを言ったとは思わないぞ。なんたって図星なんだからな。
 急ぐわけでもなく、飽くまでマイペースに佐藤のことを追う。今日はなんだか疲れた。これは絶対に三島の所為……もとい、三島が言っていた話の所為なのだろう。そう思うことで無理やりに納得する。
 と、階段に向かうところで見知った顔が階段を上がってゆく。三島と……杉林? ここは三階。四階は化学の実験室や美術室しかないはず。いずれも二人揃っていくような場所とは思えない。……ふと、昼休みに聞いた話を思い出す。三島の奴、まさか直接聞くつもりなのか?
「佐藤、ちょっと用事思い出したから、先に帰っててくれ」
「ん? なんだ?」
 佐藤の疑問に答えず、急いで階段を上がる。三島が問いただすつもりならば、向かう場所は屋上だろう。……後味の悪い話に決着をつけたく、俺は屋上に出る扉の前で立ち止まった。一瞬扉を開けることに迷ったが、三島から話を聞いているんだ。そう自分に言い訳をし、改めて扉を開けた。
「――――あ、たけ、だ」
 神々と輝く光の粒子が、赤く染まりかけた空へと消えてゆく。綺麗だな、と、その粒子の源を見てみれば、そこにはこちらを見ている三島の姿。何故かはわからないが、横たわっている。
「…………三島?」
 おかしい。確かに美しいのだろうこの光景はしかし、三島の体から発せられているものだとわかり、なにがしかの狂気を帯びる。……見れば今も尚空に舞い上がってゆく光の粒子。それは三島の靴から、そしてふくらはぎへと移る。ふくらはぎから美しい粒子が。――はて、靴はどこへ消えた。
「待て、待てよ! 何やってんだよ三島! お前、消えていってるぞ!!」
 今まで何故呆然としていたのか。身を震わせながらも三島のほうへ駆け寄る。どうしてこんなことになっているのかはわからない。ただ、ふくらはぎから太ももへ。徐々に光の粒子となって消えてゆく様は単純な恐怖を呼び起こす。
「三島、しっかりしろよ! なんだよ、なにがあったんだよ!」
「わかんない、よ…………あは、は。わたし、消えちゃうのかな……怖いよ、武田ぁ……」
 くそっ、何かないのか? これを止められる何かは? ……考えろ、俺。今、この瞬間でも土壇場で能力が覚醒する、なんていう主人公になりたいと思う自分は後で叱ればいい。考えるんだ。
 落ち着け、三島はここに誰と来た? 杉林、その一人しかいないだろ。じゃあその杉林はどこにいる。……辺りを見回すも、目に入るのは人の気配がしない灰色のアスファルトだけ。
「武田……」
「な、なんだ、三島」
 俺が考えに耽っている間、既に光の粒子は腹部にまで進行していた。……どこかで落としたのか、眼鏡をかけていない素の三島の顔が俺を見つめる。
「杉林、さん、に……近付いちゃ、駄目……あの人、は、杉林さんじゃ、ないの……」
 粒子が、喉に達した。頭だけとなった三島を見て、どうしようもなく悲しくなる。それが伝わったのか、最後に三島は寂しく微笑み、完全に、消えた。
 ……なんなんだよ。おかしいだろう、こんなこと。三島とはもう話せないのか? 死んでしまったのか? ……酷いじゃないか。死んだとしても、死体すら残らない。死に顔すらも、看取ってやれない。……事故とか、病気とか、そういうことで死んじゃうのなら納得できるんだ。でも、これは、なんだ。
 つーっ、と生暖かい感触が頬を伝う。俺は泣いていた。この場で起こった不条理に対して。日常に在らなければならないものが消えてしまったことに。
 ……どうしてこんなことになってしまったのだろう。月並みなことを思いながら、空を見上げる。既に光の粒子すら消えてしまった空は赤く、薄らと光っているのは星と月。彼方では太陽が沈みかけている。……一筋の赤い線は夕日に照らされた飛行機雲。その光景を見ていると、何故だか涙が止まらなくなった。


>>:『終わりの瞬間』

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