『西暦2028年 四月二日』


⇒《EDF本部・門前》


「ここが……EDF……」

 目の前にドーンと物怖じも無く構えた建造物が建っている。今は亡き東京タワーにも匹敵するんじゃないのだろうか。
 ここがEDF、Earth Defense Forceの本拠地。俺は今日、その、地球防衛軍に入る為ここにやってきたのだ。亡き父親はもちろん笑って「行ってこい」と言っただろうが、母親はやはりそう上手くいかない。三日三晩言い争いを続け、挙句の果てには家を勘当されてしまったという。……いいんだ、俺は父親と同じ地球防衛軍で働くこと、いや、戦うことが小さい頃からの夢だったのだから。

「そう! まさに今、俺は夢を叶えに来たのだッ!」

 拳を握り締め、自分に喝を入れる。まだだ、確かにこの地を踏みしめるという第一歩は完遂された。だがしかし、俺はまだ正式に入隊出来たわけではない。この後に控える面接を乗り越えてからが、夢の始まりなのだ!
 ……ふと冷静になり、周りを見渡す。何やら数人の職員と見られる人々が、俺に対して怪訝な表情を向けている。何をおっしゃる、彼らは歓迎しているのだ。この俺という救世主がここに入隊することを! まさに今日は祝福されし日! 皆が祝ってくれている!!
 そんな感じで面妖な動きをしながら身悶えていた所為か、迂闊にも背後から来る足跡に俺は気が付かなかった。

「――君、ここに何か用かね」
「あえ?」

 不意打ちされた所為で、俺は素っ頓狂な声で返してしまう。
 見れば俺に声をかけてきた人物、中々に厳つい面持ちであらせられる。俗に言う軍服を着ている辺り、地球防衛軍の人なのだろう。その人が、何やら怪しいものを見る目つきで俺を見ている。

「用が無いなら帰りたまえ。ここは君のような如何にも軟弱といったような者が来る場所ではないぞ」

 彼は表情を変えず、そんなことを俺に言い放った。いきなりの叱咤に、俺はすかさず反論する。

「俺は軟弱者なんかじゃない。れっきとした歩兵隊志願者だ! 何が気に入らなかったのかは知らないが、今言った言葉を取り消せ!」
「――ッハァ! 何を言うかと思ったが、小僧が言いよるわ。よく聞け小僧、ワシはお前のような奴を今まで何度も見てきた。そいつらは確かに入隊し、歩兵隊員となった。……しかしだな、小僧。気概だけでどうにかなる所じゃないのだよ、ここは。そいつらは全員死におったわ! 分かったら故郷に帰れ、お前のような目上に対しての態度がなっとらん奴、こちらから願い下げだわい」

 俺の言ったことが余程面白おかしかったのか、目の前のジジイ(こんな奴は敬う気になれない)はかなりの饒舌っぷりを披露してくれた。
 なるほどね、俺みたいな奴は入隊できるけど、その後死んでしまうといいたいのか。

「言うことはそれだけかよ」
「何ィ?」

 ジジイが青筋立てて俺を睨む。どうやら、今言った自分の話で俺を撃退できると"勘違い"していたらしい。

「つまりは、俺は入隊出来るってことなんだよな? なら万事オッケーってもんだ。こちとら入隊することが夢なんだ、入隊出来ると分かって帰る道理はどこにもねえよ」
「ほう。ならばこの先の門をくぐれ! そして、生きてこの門を出ることだな! 歩兵隊に入り、生きてこの門を出た者は未だにおらん。貴様がそれを成し遂げたら、先程の言葉、取り消してくれるわ」

 お互い言いたい事を言い終え、小休止状態となる。
 門を出る、つまり、定年まで歩兵隊で生き残れとこのジジイは言ったのだ。EDFの歩兵隊は運動能力の低下による死亡率を下げるため、定年を30歳としている。俺は今21歳。後9年生き残れと、そういう意味だ。
 上等じゃねえか。夢は叶えたし死んでもいいや、なんて考えるほど俺は馬鹿じゃない。夢を叶えたのなら、その幸福に浸ったまま生き続けたいさ。

「見てろよ、俺は必ず生き残ってやる。これでも俺は約束を破ったことが無いんだ、精々謝罪の言葉でも考えておくんだな。……それと、ジジイこそ俺が死ぬ前に寿命で死ぬなんてことになるんじゃねぇぞ。それこそ約束が守れないからな」

 そう言い残し、俺は階段を上る。上に位置するは、ジジイが言っていた"門"。建物の四方を囲う壁にある、唯一の穴。……そうだ、俺はまだ夢を叶えてすらいない。門をくぐって、まずは入隊する。それからなんだ。

「――フンッ、今時にゃ珍しい若造だわい。どれ、ワシも戻るかの」



 


⇒《EDF本部・正面受付》

「杉山浩介さんですね、ただいま確認しておりますので、しばらく席に御掛けになっていてください」

 受付のお姉さんに書類を渡すと、そんなことを言われ、少し離れた位置にある椅子を指差された。
 ……うーん、なんというかなぁ。パッと見た感じ、普通の病院と変わらない。白で統一された空間に、白衣の人が通り過ぎて行く。掲示板に《定期健診のお知らせ》なんて張り紙があるところとか。もうちょっと物々しい感じというか、如何にも軍事施設です、みたいな感じだと思っていたんだが。
 でも、やはり軍事施設というか何というか。ある所にはあるんだなと、奥まったところに金属製のごっつい扉がある。DANGERとか書いてあるんだけど、こんな入り口に近い場所にデンジャーなモノを置いといていいのだろうかと悶々。

「……でさー、あのエロオヤジ、ペイルウィングの制服を見てなんて言ったと思う? “これはいいコスプレだお。ちゅっちゅしたいお”なーんて」

 と、意外と待たされて暇を持て余していた時、先程見ていたごっつい扉から、三人の女の子が歩いてきた。どうやら陰口を数人で言い合っているらしい。

「やだ、内藤司令またそんなこと言ってたのー? ホントにもう、懲りないというか何というか……ん?」
「……む」

 目の前を女の子が通り過ぎる……と思いきや、三人の内の一人と目が合ってしまった。茶髪のセミロングに、強気そうな顔。控えめな胸に締まった肉付き。すらりと伸びた足は正にあれだよ、あれ、とどのつまり……ほ、

「惚れた」
「――え?」

 三人の女の子が纏っていた空気が凍る。場の空気も凍る。表情も凍る。唯一血の気があるのは目を輝かせ、茶髪の彼女を見つめている俺のみ。茶髪の彼女はというと、いきなりのことで目を丸くしている。
 ここで余談だが、俺は年上大好きだ。お姉さんっぽい子が大好きだ。それで強気だなんて、そんな、パーフェクトッ! 完璧としか言いようがないじゃないか! そんな子が目の前を通ったんだ、プロポーズするしかないじゃないかッ!

「俺の名前は杉山浩介! 比較的被害の少ない田舎からやってきた歩兵隊志願者だ! そこの茶髪のおねいさん、俺と結婚を前提に付き合ってくださいッ!」

 施設中に響くような声で、渾身のプロポーズ。よもや夢を叶えに来た場所で、将来の伴侶を見つけてしまうとは。今は亡き親父がやりくりしてくれたのか、はたまた古い表現になるが赤い糸というものなのか。

「……ちょっと、三咲、あんたに言ってんのよ」
「え、私?」

 茶髪の彼女……いや、三咲さんの隣にいた金髪外人おねーさんが耳打ちする。どうやら三咲さんは状況が飲み込めていないらしく、両隣にいるお姉さん達に助言を求めているようだ。
 ……おかしいな、見た感じ強気そうな人に思えたのだが。こんな感じに無茶苦茶なプロポーズをすれば、いい感じになじってもらえちゃったりとか思わなかったり思ったり。
 どうやら俺の見当違いだったらしい。赤い糸は発見から数分で切れてしまった。

「あ、ごめん、勘違いだった。俺の言ったことは綺麗サッパリ跡形もなく忘れてもらえると助かる」
「は、はぁ」
「行こう、三咲。なんかコイツ変だって」
「うん……」

 敵意すらも感じる視線を金髪さんともう一人、黒髪さんが俺に向けると、三咲さんを引きずる感じで歩いて行ってしまった。……悪い事をしたかもしれない。もしかしたら傷ついたかも。
 しかし、俺だって馬鹿じゃない。悪いことをしたらちゃんと自覚できるのさ。反省はしてないけど。

<杉山浩介様、準備が整いましたので第二作戦室まで来てください>

 と、色々と一段落したところで呼び出しの放送が流れた。よし、暇も潰せたことだし、行くとするか!
 バッと勢いよく椅子から立ち上がったところで、ふと気付く。俺はこの建物に来たのは初めてだ。詰まるところ、第二作戦室とやらがどこにあるか、全く見当がつかないわけだ。

「まいった」


 


⇒《EDF本部・第二作戦室》

 カチ、コチ、カチ、コチ。長方形のテーブルが中心を囲うように置かれている部屋に、時計の針が無機質な音を出している。換気扇が備え付けられていないのか、一人の老人が吸う煙草により、天井近くは靄がかかったように視界が悪い。
 ガタガタガタガタ、テーブルが揺れる。見れば椅子に座っている老人が何かに痺れを切らしているかのように、貧乏ゆすりをしている。平均よりも大きい体格をしている所為なのだろう、膝がテーブルに当たっているようだ。

「……その、大佐? 貧乏ゆすりは行儀が悪いので、その」
「ええい、わかっておる! しかし文句ならば、遅れている小僧に言え! 放送してからどれだけ経ったと思っている、30分だぞ? ワシだって暇をしているわけではないのだ」
「はい、その、わかっています。……その、やはり迷っているのではないのでしょうか? 彼は、その、ここに来るのは初めてですし」
「そんなもの、当たり前だわい。新しく入隊する奴がここの構造を隅々まで知っていたとしたら、それはそれで大問題だろうに」

 老人の傍らに立つ女性。秘書のようなものなのだろう、先程からイライラしている老人をなだめ続けている。
 確かに秘書も思う。第二作戦室は受付から視界に入るほど近く、案内板を確認するなり人に確認するなりすれば、迷うわけがないはず。
 ガタン、と一際大きな音が部屋に響いた。

「遅い! あの小僧、門前でデカイ口を叩きよるから、多少は骨のある奴かと思ったのだが……どうやらワシの見込み違いだったようだな」
「その、私が捜しに行きましょうか? まだ入隊もしていない者に、その、このまま施設内をうろつかれても困りますし……」

 ――だだだだだだだ

「むう、どうやらその必要はなさそうだの」

 扉の向こうから、猛烈としか言いようのない足音が聞こえてくる。なるほど、想像は安易に出来る。彼が来たのだと。
 そう秘書と老人が同じことを思った瞬間、ドーン、とまるで扉を壊すような勢いで彼、杉山浩介が部屋に入ってきたのだった。


 


 

 

「ち、遅刻してすみません! どうやら俺は迷っていた模様です!!」
「御託はいいから、さっさと席に着け」
「……あぁ! 門の前にいたジジイ! なんでアンタがこんなところにいるんだよ!」

 俺の言葉にカチンときたのか、ジジイの額に青筋が浮かび上がる。あ、プルプルしてる。明らかに怒らせてしまった。……悪いことはしてないぞ。ありのままの事を言ったら、ジジイが勝手に怒っただけなんだ、うん。
 そんな俺に対して、ジジイの横に立っている女の人――ジジイには勿体無いほど美人であらせられる――が口を開いた。

「その、この方は加藤大佐、つまり、その、貴方が入隊した場合の上司になる御方です。入隊を希望するならば、その、もう少し慎まれたほうがよろしいかと……」
「その通り。貴様を入隊させるも、このまま故郷に帰らすも、このワシ次第というわけだな。わかったら早く席に着け、ワシは気が短いんだ」

 ジジイの正体に驚きつつも、俺は言われたとおり席に着く。仕方がない、脅されたのだから。……人類の自由意志はここに潰えたのだ。
 俺の行動に満足したかのように、ジジイが話し始める。

「知っての通り、ここはEarth Defense Force、地球防衛軍だ。EDFの本拠地となる日本、つまりはエリート達が集う場所というわけだ。身体的能力はもちろん、一定値以上のサイキック保持者。選りすぐりがここで日夜、インベーダー共を打ち倒す努力をして」
「――あ、すんません」
「……なんだね」

 話の腰を折られたジジイが、あからさまに怒った表情で俺を見つめる。
 確かに話の腰を折ることは悪いと思うさ、でも俺だって言いたいことがあるんだ。ルールが許してくれなくとも、神は許してくれるはずさ。

「一応聞きたいんですけど、俺ってもう入隊したことになるんすか?」
「……現在の戦況は思わしくない。インベーダーは着実に侵略エリアを拡大し、知っていると思うが既に南、北アメリカ大陸、オーストラリア大陸、南極大陸は敵の手に落ちた。その都度、歩兵隊は駆り出される。……詰まるところ、人手不足なのだよ。上層部はともかく、歩兵隊という言わば底辺に能力規定など設けている余裕は無いのだ」
「なるへそ」

 つまり、俺の志願した歩兵隊は使い捨ての歩のようなもので、持ち歩はいくらあっても足りないと。その歩が“と金”になる素質がなくとも構わない、そういうことを言いたいのか。
 なんというか、確かに想像はしていたぜ? でも、もうちょっと英雄っぽい扱いがされていると思ってた。なんたって最前線、真っ先にインベーダーと戦ってるんだ。
 それを底辺と言い切るジジイに対し、俺は好意を抱けそうにない。

「では、話を続ける。確かに無条件で入隊はさせる。だが、我々も"足手まとい"を戦場に送り出すつもりはない。最低一ヶ月、最低限駒として使える程度、訓練をしてもらう。状況によっては訓練途中でも駆り出されるかもしれんが、そこはそう、さすがにそこまで戦況は悪化していない」
「――その、新規入隊者には、その、兵舎にある部屋が割り当てられます。基本は、その、相部屋となりますが、"ある日突然住人が居なくなっても"、その、部屋が変わる、といったことはないので、その、ご安心ください」

 ある日突然住人が居なくなる、つまりは戦死。まだ入隊したかもおぼろげに感じる俺にとって、まだ死を身近に感じることは出来そうにない。……入れば、自ずと分かるのだろうか。

「……以上だ。何か質問は」
「あー、話が凄く戻るんっすけど、さっき気になった単語があったんで聞いてもいいっすか?」
「構わん」
「ここ、EDF本部がエリートの集う場所だってのはいいんっすけど、その説明で"サイキック"ってのがあったじゃないっすか。それってなんっすか?」
「サイキック、平たく言えば超能力。人類には秘められた力があってな、それが先天的、後天的であれ発現した者をサイキック保持者と言う」
「えっと、その、今現在確認されているサイキック保持者は、その、八人です。その内の五人は、その、EDF本部、ここに居られます」

 すげー、そんじゃあ子供の頃見たスプーン曲げもやらせじゃなくて、本当にあったことなんだなー。……あ、だめ、俺信用しきれてない。物凄い眉唾物だと思ってる。
 仕方ないよね、人間、自分の見たものしか基本的に信じられないよう出来てるんだから。俺も念願の歩兵隊に入ったんだ、機会があれば見れるだろう。多分。

「すんません、以上っす」
「うむ。……では佐伯君、この小僧を部屋に」
「はい」



 


⇒《EDF本部・車道》

 

 スタスタスタ。俺は歩いている。とにかく歩いている。どれくらい歩いているかってーと、あれだ、まず俺が居た本部っぽい建物から出た。そっからめちゃくちゃ広いグラウンドを跨いで、歩道っぽいとこに出た。
 思うんだよね、俺。こういう施設ってさ、もっとこう機能的であるべきだ、って。困るじゃん? いざという時に行きたい場所まで30分かかるってのは。
 俺の三歩先くらい前に歩いてる、佐伯と呼ばれた女の人は文句も言わず歩いている。つまり、この道の長さはいたって普通ということ。
 ごめんなさい、正直に言うとニート上がりの俺にとっちゃ、この長い距離は色々とつらいものがあるんです。でも、佐伯さんは悠々と歩いている。……思うんだよね、俺。男には譲れない所があるというか、負けられない場面があるというか。

「あ……その、少し休みますか? だいぶ、その、疲れた様子ですけど……」

  どうやら俺は自分の想像以上に疲れた顔をしていたらしい。心配そうな表情で佐伯さんが俺を覗う。

「いえ! 俺はまだ歩けます! どこへでも連れてってください!」
「すみません、その、もう少しで着きますんで……その、ごめんなさい」
「い、いや、佐伯さんが謝ることないじゃないっすか。俺はこの通り元気なんで、ささ、早く行きましょう!」

 渋々といった感じで、佐伯さんが歩き出す。俺もそれに合わせて歩き出す。歩くったら歩くんだ。
 ……いやぁ、だってほら、俺の好みにストライクってわけじゃないけど、いい人だし、佐伯さん。こんな人がジジイの傍で仕えているなんて、考えただけで腹立たしい。
 それはもうジジイの権力ってやつで、ピンク色なことをしてるんだろうなぁ。あぁ、腹立たしい。

「――その、着きました」
「はやっ」

 延々と続く歩道――歩道と言っても、それはもうカッコいい車両が走る、あれだ、道路に近い――、辺りには似たような建物ばかり、その建物群の一つ、その前で佐伯さんは止まった。
 なんというか、木の葉を隠すなら森の中というか、隠してどうするんだよみたいな、形容しがたい気持ちが沸々と込み上げてくる。

「では、その、案内しますので、その、また着いてきてください」



 


⇒《EDF本部・兵舎・自室》


「――いやね、予想していなかったわけじゃないけど、やっぱりあれだよね、何もないんだよね」
「すみません、その、"何かあった時"に、その、あまり私物があると処理に困りますので……」

 部屋に案内されてみると、やはりというか、何もなかった。いや、確かにベッドはあるぜ。しかしだな、ベッドだけってのが問題なんだ。テレビもなければPCも無い。
 ……軍人さんって、ここまで娯楽とは無縁な生活をしていたのだろうか。
 俺が囚人部屋のような惨状を見て愕然としている時、ふと隣を見ると佐伯さんが申し訳なさそうな表情でこちらを見ていた。慌ててフォローする言葉を選ぶが、そもそも何をフォローするんだと至り、なんとも言えない空気が部屋に漂い始める。

「そ、その……そう! 明日からは早速訓練が始まるんっすか?」
「あ、はい、その、基本的に新人訓練は、その、朝の五時から始まります。食堂は、その、朝の三時から開放されていますので、その、寝坊したら、抜きになると思います」
「五時……三時……」

 咄嗟に思いついた質問は、俺に嫌な現実を見せただけだったという。
 自慢じゃないが、俺は夜型だ。夜行生物も真っ青な程に。それはもうドラキュラ並に日光とは今日までご無沙汰だったのだ。……そう、そのままならば問題は無い。問題というのも、今日はここに来るために寝ないでずっと起きているのだ。正直今からでも寝れる自信はあるのだけれど、そう、そこが問題なんだよ!
 俺起きれないよ。絶対起きれない。いつも徹夜明けの睡眠は20時間って相場が決まってるんだ。それを半分にも満たない睡眠で我慢しろと。

「あの、もし起きれないようでしたら、その、目覚まし時計、差し上げましょうか?」
「え?」
「いえ、その、よろしければ、ですけど……」

 俺の勘は外れちゃいなかった。佐伯さんは物凄くいい人なんだ。……あぁ、世界はまだ汚れきっていない。何故ならば、目の前にこんないい人がいるのだから。
 俺が了承すると、佐伯さんは部屋を出て、数分した後に鶏を象った目覚まし時計を抱えて入ってきた。

「ありがとう。自信はないけど、多分起きれると思う」
「はい、その、こちらこそ受け取ってくださって、あ、ありがとうございます」

 佐伯さんは俺に一礼すると、今度こそ部屋から出て行ってしまった。……もうちょっと話していたかった気がしなくもない。
 あぁ、待て待て。俺にはストライクゾーンど真ん中な人を探すという、これまた一種の夢があるのだ。確かにドキがムネムネみたいなトキメキトキスを感じなくはないけど、あぁー、気持ちを入れ替えるんだ。
 明日からは訓練、こんなことを考えている暇があったら、さっさと眠りにつかなければ。

「それにしても……」

 見れば見るほどどこかの精神病棟の一室みたいな。窓はあるけど、辺りに建物が建ちすぎている所為か、日当たり良好とは言いがたい。
 抱えている鶏の目覚まし時計で時間を確認。16時30分……寝るには早いが、仕方がないさ。なんてったって明日は遅くても四時に起きなければ、朝食にありつけないというのだから。
 そう考えると眠くなってしまうのは人間の神秘か、はたまた俺が単純なのか。ベッドに横になると、俺は間もなく眠りについた。


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