インターネッツ……それは、あらゆる可能性が存在する場所。ある者は新たな生命を生み出し、またある者は破壊を繰り返す。
 その、無限に広がる世界で、また今日も一つの物語が紡がれる……。


 
「やぁ、また会ったね」
 土手に座っていると、僕の隣に一匹の犬が姿を現した。柴犬、薄汚れた容姿から察するに、捨てられたのだろう……僕と同じく。
「今日もいい天気だなぁ。そう思わないかい? ……や、返事のしようがないと言うのはわかっているんだけどね」
 犬の方は何を言っているのかわからないといった顔で、こちらを見ている。尻尾を振っている辺り、構ってもらってると思っているのだろう。 
 ふぅ、と軽く息を吐き、空を見上げながら思いを馳せる。
 いい天気、それもそうだろう。今日も今日とてネットの空は管理され、荒れるということを知らないようだ。優しく肌を撫でる風もいつもと変わらず、今日も徒然と日々が流れている。
 嬉しいことは、家を失った僕や犬でも寒さで死ぬようなことはない点だろうか。でもそれだけ。人類はネットという理想郷を手に入れた今でも、愚かな部分を露呈し続けているんだ。然り、この僕。隣に居る犬。
 僕は人間に買われたソフトだ。PC内の掃除を任されていた。あの頃は使命感に燃えて、とにかく命令されるまま掃除していた。……そう、特に疑問をおぼえることもなく、ひたすら。
「わうっ」
「そうかそうか、君も飼われていたんだね」
 見れば犬の首には、綺麗に装飾された首輪が付けてある。しかし、ボタンを押せば持ち主が表示されるそれは、もう壊れている。それでも首輪をしている様は、見ていて哀愁を漂わせており。
 うん、そうなんだ。人間達は今の世になっても、色々なものを捨てている。それは僕のようなAIだったり、彼のような犬であったり。必要とされていたはずなのに、気付けば捨てられていた。
 挙句の果てに、僕は自意識を持つまでに至ってしまった。持たなければ、こんな現実を認識せずに済んだのに。幸福に包まれた使命感を感じたまま果てていければ、どんなに楽だっただろうか。
「だからね、僕はささやかな復讐をしようと思ってるんだ」
「わん?」
 境界の消失。人間とAIの境界は曖昧になってきている。事実、ネット上では区別が付かない。最初から実体がないAI、アバターという入れ物に入っている人間。それらは見れば見るほど似ていて、たまにわからなくなる。
 そこで思った。人間にも僕と同じ気持ちを味わってもらいたいと。……皮肉なもので、これほど人間を恨んでいるのに、その原動力たる感情は人間と同じものなのだ。
「さて、それじゃあ行きますか。君もついてくるかい?」
「わう!」

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