記号? フルボッコにされてやんよwwww←縦書き 

 


 ――俺は悩んでいた、この状況を。
 六畳半の狭い部屋に所狭しと二人の人間が座っている。いや、そもそもの話、俺の部屋に女の子が居ること自体おかしいのだ。人付き合いのないこの俺が人と面と向かっているなど、年に一度あるかないか。
 不肖21歳、俗に言うオタク且つニートライクな俺にとっては正に、今この状況は驚くべき事態というわけだ。

「では、質問させてもらうとですね、貴方は何者さまでしょうか」

 目の前の少女は応えない。
 現実離れした服装――コスプレの可能性もあるが――に身を包む彼女。正座をしているにしても、その容姿は欧州系。少しくすんだ金髪に、光を放っているかの様な緑眼。
 そう、何もかも現実離れしている。この存在がこの部屋にどんな理屈で出現したのか。あぁ、思い当たる節が無いといえば嘘になる。しかしながら――。

「召喚に従い参上した。――――貴方が私のマスターか」

 どうにも、この現実をすぐには認めれそうにない。

 

Phase-XX 『親方ァ! PCから女の子がッ!』

 

 俺の名は藤堂勝也。名前に特別な意味合いなどなく、家柄が素晴らしいというわけでもなく、かといって個人に特別な力があるわけでもなく。
 簡単に言うと、至極平凡。起伏のない人生を淡々と送る一市民だ。
 大学を卒業してからというものの、就職をするわけでもなく、バイトをするわけでもなく、気付けばこんな体たらく。四畳半一部屋の狭いというしかない場所に住み、親の仕送りで生活をしているという、言わばニートだ。
 別に好きでこんなことをしているわけじゃない、と言えば嘘になる。なんだかんだでこのニート生活は楽だし、あぶれた金でオタクグッズを買うのは幸せに値する。
 日がな一日PCのディスプレイに向かい、エロゲーをやっている姿はヒキオタニートと呼ばずなんと言う。
 そんな自虐的なことを考えている今でも、新しく購入したエロゲーに心をときめかせている。……仕方がない、何故ならそこにPCがあり、手にはエロゲーがある。
 DVDをトレイに載せ、ボタンを押す。スムーズに動作したかと思うと、ディスプレイにインストール画面が表示される。……あぁ、わくわくしているさ。何をするにしても、初めての物には期待するのが人間だ。

「……ん?」

 と、そこで気付いた。なにやらPCが不穏な音を立てている。……どうってことないさ、と思いつつもマウスのカーソルは落ち着くことを知らないようにぶるぶると震えている。
 くっ、タスクマネージャー! マネージャー!!
 CPU使用率が100%。そんな馬鹿な、エロゲーのインストールに音を上げるほど俺のPCは軟じゃないはず。ないはずなのだが、これはどうしたことだろう。使用率が100%から101%と、徐々に上がっていくではないか。
 どうして! ……声にならない叫びを上げる俺を無視して、使用率はぐんぐん上がってゆく。素晴らしい、鰻上りですぞ。
 インストール状況を見てみると、どうってことはないと言うかのようにそろそろ完了しそうだ。と、CPU使用率が200%を突破しました! どうみてもおかしいです!!

「どうしよう!!」

 まじで。

《ポン》

 電子音がディスプレイの左右に置かれているスピーカーから流れる。見ると、インストール終了のポップアップが表示されていた。
 まるでインストールの所為だったんですと言わんばかりに、PCは嘘のように静まった。……これが白昼夢というやつか。とてもスリリングな夢だったなぁ。
 そりゃあね、君。デュアルコアじゃあるまいし、使用率が200%と言うのは数学的に見てもおかしいとしか言いようがないわけですよ。……さっきまでの事は夢、幻覚幻聴、理由はどうあれ気のせいだったのだ。
 うむ、人間とは自分の理解の範疇にあるもの以外、認められないんだよ。だから、さ。

「今は全て忘れ、エロゲという名のエデンに意識を傾けようじゃないか!」

 なんだかんだと言っても、インストールは完了した。ならばやるという選択肢以外、存在してはならない。


 俺はこの日のために、自主的な情報規制をしていた。なんのためかと聞かれたら、一般人には答えあぐねるだろう。
 エロゲー。二次元キャラ、アニメキャラ、呼び方は多数あるが、端的に言ってしまうと絵。絵をテキストと音楽で飾り立て、一つの娯楽作品として成り立たせているのがこのエロゲーと呼ばれるPCソフトだ。
 娯楽……例えば映画にも様々な方向性の作品があるように、エロゲーにも様々な作品がある。とことんエロさを追求した作品、魅力的なキャラクターを前面に出す作品。また、エロゲーとは名ばかりの話で魅せる作品。……この三つの中で言えば、俺は最後の“話で魅せる”作品が好みだった。
 後は言わなくともわかるだろう。推理小説で言う犯人のように、物語の先を知ってしまうのはどうしても避けたかったのだ。
 さらに、俺は何も知らない状態でプレイすることを至上の喜びとしている。キャラ設定、あらすじ……その世界観や物語を彷彿とさせる要素は、全て絶っていた。
 “Fate/stay night”
 月姫に続きTYPE-MOONが送る伝奇ビジュアルノベルと謳われるこの作品、それが今、インストールを終えた。


「……うぉぉおぉおぉぁあああああああ!!」

 だからッ! 俺は今まで様々な形で襲い掛かる誘惑に耐えてきたッ! 困難を乗り越え、苦節8ヶ月、やっとすぐにでも出来る状況になったのだッ!

「それがッ! どうしてッ! どうしてぇぇえええええ!!」

 起動できない。
 単純な、そう、至極単純なこと。ゲームが起動しないのだ。

「落ち着け、落ち着け俺。俺のPCはエロゲ如きの推奨スペックを満たせないほど貧弱ではないはず。かと言ってディスクはちゃんとドライブに入ってるし、インストールも完了した。何故だ」

 と、PC画面を見る。特に異常はない……と思ったのも束の間、なにやらデスクトップがまるでウルトラセブンのOPのようにぐにょぐにょし始めたではないか。
 今思えば俺は至極冷静だったと思う。よくよく考えれば奇想天外もいいところ、超常現象怪奇現象なんていう非現実的なことが起こっていたのだから。
 だから、そう。

「今現在進行中でPCがスーパーモードよろしく光り輝きまくっていたとしてもれれれ冷静いいでいらららっれますぞ!!」

 ほんとはすごく怖いんだ。
 なんてったってボロアパート、ナニかが出てもおかしくない。リングのように呪いのビデオを見て死んだとしても、まるで違和感なく死体が風景に溶け込むみたいな。
 しかし輝いている。

「おぉう!?」

 なんだこれは。今も輝き続けているディスプレイから、なんだろう、髪の毛が飛び出ている。……そう、これはアホ毛だ。アニメキャラによくある、頭のてっぺんにぴょこんと生えているやつだ。
 って、そんなことはどうでもいい。問題は何故ディスプレイにアホ毛が生えているか、だ。凄まじい好奇心に襲われ、俺は無意識のうちにその“アホ毛”を掴んでしまった。意外と硬い。ちょっと幻滅。

 ――ずる、ずるずる。

「い、イヤァァァ! なんかズルズル出てきやがりましたわぁぁぁあぁあああ!! 掴んでごめんなさいいいいいい!!」

 いやまじ想定の範囲外だし。アホ毛だとは思ったけど、まさかそれが本当にあの頭に生えているアホの子を連想させる髪の毛だとは思わないだろ常識的に考えて。

「だって! いやだって!! 生えてきたのはPCのディスプレイっすよ!? 俺は悪くない! 悪いのは掴んだぐらいで出てきてしまうようなこの、この……」

 ――――ば、馬鹿な。
 ディスプレイから出てきたはずの“アレ”がどこにも見当たらない……っ! それどころかさっきまでの神々しさはどこへ言ったのか、PCが何事もなかったかのように静まっている……ッ!
 白昼夢――No! 幻覚――No! L5に感染――No!! 奴は必ず、この部屋に居るはずだ……。

 ――ガタン

 Exactly(そのとおりでございます)。
 よくよく考えたら、この六畳半の部屋に隠れるスペースなどあるはずもないわけでな。必然的に後ろを顧みると、そこには見たこともないくらいに綺麗で、ありえないくらいに可愛くて、みとめたくないほどの女の子が立っていた。
 どう考えても日本人ではないだろう金髪緑眼に、どう考えても常人ではないだろうその身を鎧に包んでおり、はい。

「ど、どっから現れやがった! …………あ、アッー! おまえ、おま、お、踏んでるよ!! 色々踏んでるよ!! とりあえず質問は後回しで、踏んでるよ! フィギュ、ギュアァ! クビがぁぁああ!!」
「――は、召喚に従い参上した。貴方が」
「そっからどけっつってんだよ! あ、踏みにじらないでええええ!!」



「で、だ」

 お互い落ち着いた(主に俺)ところで、向かい合う形で座る。向こうが正座したんで、俺も正座。足が痛いけど我慢するとして。

「では、質問させてもらうとですね、貴方は何者さまでしょうか」

 ……………………沈黙。喋れよ。なんか喋れよ。さっきなんか言いかけてただろ。
 応えない。目の前の少女は目を瞑り、何かを諦めたような表情をしたかと思えば、口を開いた。

「召喚に従い参上した。――――貴方が私のマスターか」

 少女はそんなことを言う。俺は思った。こいつは確かにPCから出てきたはずなんだよな、頭にアホ毛があるし。俺掴んでたし。つまり、掴めるということは現実だわな。フィギュアをぶっ殺されたし。
 で、その現実が非現実地味た格好をしていて、ラリってるようなことを口走っていて。あれぇ。
 俺は覚えのない頭痛に悩まされながら、地面に置かれた“モノ”にふと視線を移す。

「あ」

 なるほど、彼女はゲームから出てきたのだと。中々に俺自身も不条理な思考回路でそんな結論に至ったというわけだった。


続かない。

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