「いじめるんなら、そのいじめられている奴に殺される覚悟で手を出せよ」
 唐突に僕が口を開いたためか、僕が口を開くことが少ないためか、どちらにせよ教室の視線が僕一点に注がれる。
「あぁ? 何言ってんだお前」
「わからないなら教えてやるよ。いじめには様々なケースが確認されているが、そのほとんどは多人数の一方的な暴行だ。それに対し、いじめられている側が何の反抗もしなかった場合、命の危険を考えろ、と言っているんだ」
 ここまで砕いて説明しても、彼女の頭では理解できなかったらしい。少し考えるような仕草を見せた後、わからない原因は僕にあると言わんばかりな形相で睨み付けられる。
「わかんねーって、言ってんだよ!」
 こちらに駆け寄ってくる。結局は暴力に訴えてくる。理解できないことは、対象を壊すことによって解決できるという幼児思考の典型。
「動くな」
 ならばこちらも、絶対的な暴力で対抗する。――カチカチッ、と音が鳴る。教室中の皆が、必ず一個は持っている、カッターだ。
 一瞬、教室の空気が固まる。いつもの日常風景ではありえない、異質の“ソレ”。人を殺すには十分すぎるほどの、暴力の塊。血が通っている場所を切るだけで、二次的要因により殺傷可能。重要な臓器を破壊することによる殺傷可能。……いずれも、この小さな塊を動かす力さえあれば成せることだ。
「な、なんだよ、お前……そんなもん持ち出したってなぁ」
「うるさい。人を傷つけるってことはな、自分が傷つくことにつながるんだ」
 静かに、まるで他の生物が死滅したような、そんな気分に陥りながらも、確実に彼女へ近づいてゆく。進むにつれ、氷が溶け出すように回りの動きが騒がしくなる。
「お、おい、あれまずいんじゃね?」
「やーよ私、アイツに関わるの」
「誰か先生呼んで来い!」
「んなこと言うなら自分で行けよ」
「いやよ! 誰か止めて!」
「やべーって、さっさと誰か止めないと大事になるぜ!?」

「■や、●◇か〇っさ●よん▲こ▲※て」

「◎●●ー、■●★%#だ▲■」


「■■■■■■■■■■■■」

 

「■■■■■■■■■■■■」

 

 

「うるさいッ! ごちゃごちゃうるせぇんだよ。黙ってねぇと、殺すぞ――ッ!」
 再び、静まる教室。……まるでそれが自然な流れだというように、教室から人影が消えてゆく。いつのまにか彼女の取り巻きも消えて、僕と彼女との二人が、この夕焼けに照らされている場所に残された。
「は、はは……」
「あはは」
「はははっ、はははは」
「あはっ、あははは」
「…………くっ、笑うなって」
「あははは! あっはははははは!」
「笑うなって言ってんだよ!!」
「あははははははははは」
「こ、んの野郎……!」

 先ず は 右腕

「ひ、ぃ……あ……ぎゃぁぁぁああぁあぁぁぁああ!!」
 刺してみて分かったことだけど、人間の体は予想以上に硬いことが分かる。カッターの刃程度では、斬るという行為には程遠いことを感じさせる。
「い、痛い、痛い痛い、痛い痛い痛いいたぃぃぃ!」
 それは、鳥の骨付き肉を切るぶつ切り包丁の様な。繊維を傷つけながら、その重みと形状により無理やり対象を破壊する。……触れた瞬間はよかった。けど、刃がめり込んでゆくと共に、まず血が邪魔で上手くそれ以上切込みが入らない。次に、先ほど言ったとおり、予想以上に硬いことが分かる。……ゆっくりと、刃を抜き出す。
「ぁ……ぁあ」
 ……ここは確実に息の根を止めよう。これもまたゆっくりと、彼の喉に刃を突き立てる。
「や、やめ、て……」
 血で汚れた所為か、さっきのように上手く突き立てられない。仕方がないので、力を入れて無理に捻り込む。
「や……ぐ、ご……がが」
 中々、予想していたような派手な血飛沫が上がらない。強引に捻り回すも、ゴリゴリとした感触が伝わってくるだけだ。……面倒なので、刃を突きたてたまま首の周りをぐるっと一回転させる。
「――ッ!? こ、こら! 何をやっている! やめろ、やめなさい!!」
 教師が来た。何かと相談したのに、何の役にも立たなかった奴。建前は熱血教師だそうだけど、実際、そんな人間いるかどうかさえ疑わしい。コイツがその例だ。
「先生どうしたんですか、慌てて」
「どうしたんですか、って……」
「先生、僕やっと彼女と仲直りできたんですよ。ほら、こんなに仲良く遊んで」
 見ると、彼女の首からは派手に血が噴出している。
 ……いつの間にか教室は夕焼けの赤だけでなく、他の赤が混ざり始めていた。
 
 つ――、と、無意識の内に涙が頬を流れた。どうして、こんなことになったんだっけ……。



一番(これ)を最初に選んだ人は、邪気眼を持つ資格を持っていると言えるでしょう。
その調子で覚醒してください。
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