インターネッツ……それは、あらゆる可能性が存在する場所。ある者は新たな生命を生み出し、またある者は破壊を繰り返す。
その、無限に広がる世界で、また今日も一つの物語が紡がれる……。

 

「あー、くそ、なんだこれ。まじむかつく」
 深夜二時三十分、俗に言う丑の刻。全ての生き物が寝静まると言われているこの時間でも、このインターネッツは眠らない。
 昼夜逆転、生活サイクルの乱れ、不眠。様々な理由で、されど少なくない数の人間達は今日もインターネッツをゆく。
「うっぜ、ほんとなにこれ、消えないんだけど」
 そんな有象無象が入り乱れるインターネッツ、今宵も一人の人間が“それ”に出くわした。
 

 ……近年、インターネットは進化し続けている。ヴァーチャルリアリティ、簡潔に言うとこれが一役買っている。
 最近はPCを買うと、キーボード・マウス・スピーカー等は付いてこない。付いてくるのは、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)・トレースグローブ・貼り付け型電極、この三つ。
 機械で機械を動かす時代は終わり、今や意識をネットの海に移すことで現実を相違ない、言わばヴァーチャルリアリティ、今のインターネットはそれそのものだ。
 しかし肉体はネットに移せない。意識……魂とも呼べるだろうそれを受け止める器が“アバター”。容姿を決めることはもちろん、声に到ってまで自由に設定できる。
 そんな全てが情報で管理できるような世界になった今でも、今となってはレトロチックな、いわゆる怪奇現象というものが存在する。そう、実際に存在しているのだ。
 まるで人間の後をつけてくるかのように、むしろ人間がいるからこそ怪奇現象が起こり得るのか。ここではその話は割合しよう。
 さて、今は一人の少年型アバターが話の焦点だ。

 

 くそっ、なんだよこれ。あれか? 最近噂になってるやつ。確か……そう、“消しても消えないPOPウィンドウ”。
 でもそれってどこかで聞いたことあるんだよな。ほら、あれよ、あれ。あれだ、昔の拡張子で……フラッシュだ。そうそう、フラッシュであったよな、確かそんな話。
「……くそが、うざってえ。これの所為で何も見えねぇじゃんかよ」
 いらいらする。ディスプレイを多い尽くすほどの巨大POPは、アバターに届くメールさえも見せてくれない。そもそもの話だぜ、こんなでかいPOPが広告審査を通るはずないじゃんって話。
 じゃあこれはなんだ? 正直、こりゃ広告じゃない。なんてったって真っ白だからな。広告もクソもあったもんじゃない。
「って、もう二時半じゃねーか!」
 毎週欠かさず見てるアニメの時間じゃんよ……まじうざってぇ。かと言って、コイツ消えないし。なんだっての。俺がなにしたっての。
《みんなー! 今日もりりかるハルヒのローゼンストレイン、はっじまるよーっ!》
「ほうぁ!?」
 な、なんじゃこりゃ! POPにアニメが……な、なんじゃこりゃ!!
「ははぁーん、さてはこの間の懸賞で何か当たったんだな……どうりで、賞品じゃなきゃアバターに干渉しようがないもんな。どんなもんじゃーい!」
 
 と、アニメを見ること23分。

「それにしてもこのアニメ、面白いっちゃ面白いんだけど何をしたいのかよくわからんな。魔法少女の団長が人形を手に入れてロボットに乗る……そのカオスがたまらない」
 アニメがその終わりに向けてクライマックスを迎えたと思ったその時、急にノイズが混じりだした。
「な、なんよこれ。いいところだってのに、あぁー、どんどん酷くなってる」
 最初は気にならなかったノイズも、今では画面を覆いつくすほどに、いわゆる砂嵐状態へと変わってしまった。ぎりぎりまで聞こえていた音声も聞こえなくなり、気付くとその空間には少年型アバターが一人だけ、ぽつんと存在していた。
「……あー、萎えた。こりゃもう寝るべ」
 そうHMDを外そうと手を上げた――はずだった。
「な、なんねこれ! 手が上がらんやないけ!」
 アバターのほうは間抜けに手を上下しているのだが、現実の方は、そう、まるで金縛りにあったかのように動かない。
 なまじ現実に視界を向けられない分、途端に恐怖を感じ始めた。
「っだーもう、誰ねこんなすったらんことしちょる奴ぁ!」
 恐怖を感じているがゆえに、声を張り上げる。……思えば、深夜とはいえ他のアバターが一人もいないというのがおかしかったのだ。
 ここは個室ではなく、一つの広場。なのに一人も見かけない。そうだ、夜でもここはいつも賑わっていたはず。
 そんなことを考えていた頃、今まで動きがなかった巨大POPに、急に映像が流れ出した。
「わ、わったんなう……(what and now)」
 見れば巨大POPには何かの署名を連想させるかのごとく、一定間隔で人の名前が表示されていた。
 人の名前が無数に羅列されている……それ以上でもそれ以下でもないはずなのに、彼はそこに見てしまった。自分の名前を。
「ふぁっく! でぃすいずくれいじー! はうまっち!(Fuck! This is Crazy! How much!)」
 と、感覚はネットに移しているはずなのに、現実の方で背後に気配を感じる。
「あるぷとらおむ……あるぷとらおむ!(Alptraum Alptraum!)」





その後、一つの地方デジタル新聞に、小さい記事が載った。
《×日3時ごろ、○○□さんが自宅で倒れているところを○○△さんが発見。首から血を流しており、発見からすぐに病院へ向かったが、救急車で移送中に死亡。死因は出血多量によるショック死。何者かによる侵入された痕跡は無いため、自殺という見通しが強い》


「というお話だったのさ」

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